変異型ウイルスとその特徴比較

まず、ウイルス変異について簡単に説明します。

ウイルスは遺伝子の塊が、タンパク質と、場合によっては脂質の膜とを被った、小さな粒子であると理解してください。ウイルスは、自分自身で増えるための材料を持っておらず、人や動物などの生きた細胞の中に入ることで初めて増えることができます。そしてウイルスが増えるときには、自分の遺伝子のコピーを細胞の中で大量に作ります。そのときに、部分的にちょっとだけ間違ったコピーができる、すなわち変異が遺伝子に入ります。つまり、ウイルスが増えるときには必ず変異が(1箇所とか数カ所とか)入ったウイルスがどうしても発生するのです。

体の中でできたウイルス(様々な変異が入ったウイルス)が増えるとき、どれも同じような増え方をすれば、どれも同じぐらいの数で(割合で)増えます。しかし変異の入ったウイルスの中に、たまたま偶然、増えやすい変異ウイルスができてしまっていたら、そのウイルスが他より早く増えて、数が(割合が)多く(高く)なります。もちろん変異は「中立的」に起こるので、増えにくくなる変異ウイルスも同じようにできます。この場合は、そのウイルスは結果的に淘汰されて、なくなります。このような、変異と選択淘汰の繰り返しの中で、より増えやすいウイルスが必然的にできてくるのです。

ただ、体の中で増えやすいことと、感染性が高いことは一致しません。人と人との距離を超えて感染を成立させるためには、単に細胞の中で増えやすいことでは十分でありません。他にも新たな変異がさらに遺伝子に加わることで、これもまた偶然に、高い感染性を獲得したものができて、今後は人から人へ、他の変異ウイルス(あるいはもともとのウイルス)より早く、確実に感染を広げてしまうのです。

集団内で感染が広がると、変異の頻度は高まって、変異は遺伝子の中に蓄積していきます。増えやすいだけでなく人への病原性が高くなるウイルスも、確率的にはいつかはできてきます(もちろん逆もあります)。そして、感染性が高く、病原性も高いウイルスが、早かれ遅かれ、世の中に広がるのです。また、中にはワクチン に効きにくくなる変異が起こることも知られています。このように、ウイルスが勝手に変異を重ねる中で、人間にとって都合の悪いウイルスができて広がってくると、人間はそれに警戒し、名前をつけて世界中に警告を発するわけです。これがいわゆる「変異株」と世間で言われているウイルスです。

科学者はこのようなウイルスを「variant of concern」(心配な種類)と呼びます。略してVOCと表記されます。世の中には数えきれないほどの変異ウイルス(variant)が時間の経過とともに広がっていますが、現在(2021年6月10日)VOCに分類されているのは5種類(系統)です(国立感染症研究所による)。それぞれの名称や最初に確認された国、その性状について下の表に整理しました。

【2022年4月11日追記】

2022年3月28日、国立感染症研究所はこれまでのVOC分類を見直し、VOCをデルタ株とオミクロン株の2種類に変更しました。これは感染の主流となる株が大きく変化したことを受けたもので、過去に主流であった株のうち3株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株)がVUM(Variants Under Monitoring;監視下の変異株)に再分類されています。

PANGO系統

(WHOラベル)

最初の検出 主な変異 感染性

(従来株比)

ワクチンの効果
B.1.1.7系統

(アルファ株)

2020年9月

イギリス

N501Y 1.32倍程度高い どちらとも言えない
B.1.351系統

(ベータ株)

2020年5月

南アフリカ

N501Y E484K 5割程度高い 効きにくい可能性
P.1系統

(ガンマ株)

2020年11月

ブラジル

N501Y E484K 1.4-2.2倍高い 効きにくい可能性
P.3系統

(シータ株)

2021年1月

フィリピン

N501Y E484K 高い可能性 効きにくい可能性
B.1.617系統

(デルタ株)

2020年10月

インド

L452R E484Q 高い可能性 効きにくい可能性
B.1.1.529系統

(オミクロン株)

2021年11月 G142D
G339D
S371L
S373P
S375F
S477N
T478K
E484A
Q493K
G496S
Q498R
N501Y
Y505H
P681H
高い 効きにくい可能性

 

現在(2021年6月10日)日本では、従来株がアルファ株にほぼ置き換わっています(85%程度)。また全国各地(特に大都市圏)でデルタ株(かつてインド株と呼ばれていた)が検出され始めています。デルタ株の検出頻度はまだ高くありませんが、確実に検出頻度は増えています。アルファ株より感染性が高い(1.5倍程度)というデータも報告されていることから、いずれ(1〜2ヶ月の間?)国内の主流となる可能性があります。

【2021年8月1日追記】

2021年7月28日のデータによると、大阪府では全体の25%程度が既にデルタ株に置き換わっていることが報告されています。さらに、8月末までには府内の感染の80%以上がデルタ株に置き換わるだろうと予想されています。

【2021年8月18日追記】

2021年8月17日に開催された政府の「新型インフルエンザ等対策推進会議・基本的対処方針分科会」によると、8月1日時点で全国で分離されるウイルスの67%はデルタ株であったとされ、特に東京では95%がデルタ株になっている状況であると報告されています。これは、大阪府を含む感染拡大地域のウイルスは、ほぼ完全にデルタ株に置き換わったと考えて良いと思います。

【2022年4月11日追記】

オミクロン株による感染拡大は2月初旬をピークとして収まりつつあります。一方、オミクロン株の亜型であるBA.2亜型(ステルスオミクロンなどとも呼ばれる)が従来型のオミクロン株(BA.1)に置き換わりつつあります。BA.2亜型はBA.1より感染力が高いことも知られ、今後の感染拡大が懸念されています。