「オミクロン株」について(1)(2021年11月29日)
2021年11月25日、科学雑誌「Nature」は、PANGO系統でB.1.1.529と呼ばれる変異株が、南アフリカで多くの感染者から検出されていること、WHOや欧州CDCがこの系統を監視すべき変異株の1つに位置付けたこと、をまとめた記事を掲載しました。
その後11月27日にWHOは、この系統にオミクロン型変異株という名前をつけ、警戒レベルを最高の「懸念すべき変異株」(Variants of Concern)に位置付けました。日本の国立感染症研究所も追って28日に、日本にとっての懸念すべき変異株に位置づけ、国はこれを受けて外国人の入国を原則禁止する措置をとっています(11月29日付)。
さて、オミクロン株の出現がなぜこれほど世界中で反響を呼んでいるのか、そして私たちはこれにどのように対処すれば良いのか、解説します。まず、これまで(11月29日現在)わかっている事実は、以下の通りです。
- すでにデルタ株が感染の主流となっている南アフリカで、多くの感染者からオミクロン株が分離されつつある。
- ワクチンによって誘導される抗体が結合する部位(スパイクタンパク質)に非常にたくさんのアミノ酸変異が生じている。
1の事実から、オミクロン株はデルタ株より感染力が高いことが推察されます。日本でも第5波において全国的に感染を広げ、医療に大きな負荷をかけたデルタ株を凌ぐ感染力を持つとしたら、多くの国が警戒心を持つのは当然です。
2の事実から、オミクロン株に対しては既存のワクチンが効果を発揮しにくいかもしれない、という推察が成り立ちます。現在、日本でも低いレベルで感染を抑えることができている背景には、ワクチン接種が全国民の70%を超え普及し、発症や重症化を抑えているからということを考えると、ワクチンが効きにくいウイルス変異株に警戒心を持つのも当然のことでしょう。
しかし、1の事実を解釈するには注意が必要です。この事実だけでは、本当に感染力が強くなったという証拠としては弱いと考えられます。その後、世界中でオミクロン株の拡大状況調査が急ピッチで進んだ結果、11月29日現在は、高い感染力を持っているということはまず間違いないだろうと認識されています。しかし、デルタ株と比べてどの程度感染力が上昇しているか、まだ正確なことはわかっていません。1.1倍かもしれませんし、1.5倍かもしれません。1.1か1.5かの違いは非常に大きいものです。私たちは今後の科学的データを見守って、新しい変異株の性質を正しく理解することが求められます。
2の事実に関して、11月29日現在、実際にワクチンが効きにくくなっているという証拠は全くありません。現在、世界中の研究者が実験的手法でこの可能性を検証しつつあります。確実な証拠が得られるまでは、数週間から数ヶ月は必要です。早期に得られるデータは実験室内のデータで、その結果がただちに市中感染で起こりうることを表すとは限らない、ということに注意が必要です。早くても1ヶ月、あるいは2ヶ月以内には、ある程度信憑性のあるデータが得られると思います。まずはその結果を待って、判断するのが賢明です。
まとめます。現時点で得られるオミクロン株に関する正確な情報はまだ限られています。現時点で、恐ろしいものが日本に侵入してくるのではないか、ワクチンが効かなくなるのではないか、などと恐怖を感じる必要はありません。可能性だけに基づく報道などに対し、過度に反応して心配をする必要もありません。今はあくまでも基本的な感染対策をきちんと実施して、今後得られる科学的な情報に基づき、冷静に対応することが求められます。
オミクロン株の最新情報は、今後このサイトでも更新していく予定です。
参考情報:国立感染症研究所(外部リンク)