異物混入ワクチンの健康影響について

2021年8月26日、厚生労働省はモデルナ社製ワクチンの一部ロットについて、異物混入の報告が接種施設から寄せられたことを理由に、該当ロットの使用見合わせを発表しました(詳細はこちら)。

該当のロットの大部分は未使用である一方で、一部はすでに接種されたということで、接種された人の健康影響について調査が始まっています。

本学の職域接種でも該当するロット「3004734」が使用されたことが確認され、大学から関連メッセージが発出されています(発出メッセージはこちら)。

あなたが接種したワクチンがこのロットであるかを知りたい場合は、手元に残っているワクチン予防接種済証に貼付されたロット番号シールにて確認できます。

さて、このロットのワクチン接種を受けた人は、体に何か悪い影響が出ることを心配されていることでしょう。2021年8月27日現在、国にこの件に関連した健康被害の報告はありませんが、今後なんらかの健康影響が報告される懸念は、全くないとは言えません(随時、最新情報を更新予定です)。

これまで報道されている情報に基づいて、専門家からは以下の意見が述べられています。一つの意見として参考にしてください。

「厚生労働省から示されている「モデルナ社のワクチンの取り扱い」では、使用時に異物混入の有無について目視で確認することが求められていて、異常な異物が混入する場合は使用しないことが明記されています。したがって異物の混入したバイアルは、基本的には使用されていないはずで、万が一見逃されたとしても、使用に供されたバイアルは少数であると考えられます。事実、異物混入が見つかったということは、この取り扱い指示が適切に運用されていることの証と考えられます。

また大前提として、報告されたロットのワクチンであっても、そのロットのバイアル瓶、すべてに異物が混入していた可能性は非常に低く、つまり、異物混入があったバイアルは報告のあったロットのおそらく極一部のバイアルに留まる、という点も挙げられます。

報道されている情報では、発見された黒い異物はバイアルの底にすぐに沈んで見えたということなので、ワクチン液の調製と、ワクチン液を注射筒へ充填する作業の中で、注射筒へ混入する可能性(割合)はそれほど高くはないと考えられます。あるいはその作業の中で、やはり目視でワクチン液の状態は確認されており、結論の1つとして、この異物が実際に接種者を受けた人の体内に入ったケースというのは、例えあったとしても、極々一部であると考えて差し支えないと考えます。

さらに、このワクチンは筋肉注射されますので、接種された異物は接種部位に留まります。血流に乗って他の部位に移動することはないと考えてよいと思います。異物が何か、ということにもよりますが、筋肉内に留まった小さな異物が、大きな健康影響を与える可能性もまた低いと考えられます。

以上を考えると、異物を実際に体内に接種された人は現実的にはほとんどいないし、例え万が一(あくまでも仮定の話として)体内に入っても、直ちに心配する状況にはないと考えられます。もちろん、リスクはゼロではありませんので、今後、政府から発表される情報を注視すると共に、該当ロットの接種を受けた人で、なんらかの体調変化を感じた場合はすぐに医療機関を受診していただきたいと思います。」(一部、8月29日修正

厚生労働省では今回の異物混入に関連したQ&Aを用意しています。こちらで確認してください。

【2021年10月7日追記】

その後の厚生労働省の調査の結果、混入が確認された異物には少なくとも3種類があったと考えられています。1つはステンレス、もう1つはゴム、あと1つは自然に生じるワクチン内容物の凝集物(白色)です。

ステンレスは、モデルナワクチンの製造を受託生産するスペインの工場にて、ワクチンの瓶に蓋をする工程で部品の取り付けに不備があったため混入したと結論づけられています。同工場では一部の出荷前ワクチンでステンレスの異物混入が確認されているようですが、残念ながらチェックをすり抜けた一部のロットが日本へ輸送され、使用されたものと考えられています。

ゴム片については、「コアリング」が原因と考えられています。もともと多くのワクチン瓶には蓋の一部にゴムが使われています。ワクチン接種の際、注射器で瓶の中身を注射器へ充填する際、針の使い方により蓋部分にあるゴムが針先で削り取られ、ワクチン内へ混入することがこれまでも知られていました。これがコアリングです。厚生労働省では今回の異物混入報告を受け、ワクチンバイアルへ針を刺す際の注意文書を発行し、コアリングの再発を防ぐ措置を行いました(こちら)。

最後の凝集物は、ワクチンに限らず、一部の薬品に見られる現象です。特に凍結保存される液体薬品の場合、凍結時に溶液内の薬品濃度が不均一になることが避けられず、内容物の凝集が発生します。製造会社はこのような事象が起こる可能性は把握しており、使用説明書にも凝集物が見られることがあることを記載しています。このようなものは通常、異物とは言わず、厚生労働省では詳しい調査は行っていません。なお、このような白色の凝集物については接種会場等の判断で、使用が見合わすことが認められています。ワクチンのバイアル瓶から注射器へ充填する作業などの中では注意深く異物の有無が目視でチェックされ、一時的に使用が見合わされている(その後、製造者等に確認後、安全と判断されれば接種が再開されます)と考えてください。